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即効性はなくてもいつの間にか血となっているから小説を読む。

オラクル・ナイト (新潮文庫)

オラクル・ナイト / ポール・オースター

やはり文章のうまさを随所で感じさせる。著者なのか訳者(柴田元幸)なのかどちらの力量かわからないけど(多分両方)、唸るほどの言い回しが数カ所あった。今思うと付箋でも付けるべきだったのに、先に進むことを優先してしまった。
あとは入れ子(本編/主人公の執筆している小説/小説の中の主人公が編集者として持っている小説)の構造も好き。ダイレクトに結び付くわけではなくとも、どこか繋がっている。有耶無耶ながらもその繋がりを感じ取ったときに小説を読んでいるというカタルシスがある。

ストーリーは幻影の書に比べると随分スケールダウンしているけど、限られた空間で展開される物語がオースターの十八番な気もするし、水平は狭くても垂直の深さがある。
まあでも読んでで明るくなる類いの話ではない。出来事そのものも自分の中で消化しようとせず、そこに隠されたテーマが何かを探るような人は読むのに適しているかもしれない。ここで僕が感じたことを的確に記せればよいが、簡単に記せるならば小説である必要はない気もする。「愛は複雑だし、脳は飛躍する」みたいなことは感じた。

オースターを全ておさえているわけではないが、新作(文庫)が出れば購入するくらいは好んで読んでいる。

これがフリーでいいの?

non-biri

先日、日本酒を買いに行った比較的近場の酒屋さんで、『のんびり』という秋田についてのフリーマガジンをもらって帰った。日本酒がテーマだったから軽い気持ちで。(今回が発刊6号目。)
妻が先に読み、「面白い!」と太鼓判を押していたので、僕もどんなものかと読み始めた。すぐに引き込まれてしまった。杜氏や蔵元等へのインタビュー(というより会話に近い)で放たれる言葉が圧倒的に真摯で、これでもかと心に刺さる。きっと編集側の取材への姿勢もすばらしいのだと思う。
頑張ろうという気になった。それも、焦燥感とかではなく、希望の方の意味合いで。

以下、ちょっと長いけど、 高橋藤一杜氏の言葉を引用。(P43『挑む』より。)

酒造りも新しい事に取り組めば、失敗はつきものである。
挑戦しては失敗し、挑戦しては失敗し、
その繰り返しの中で、やっと成果を得ることができる。
独自の技術が身に付く。
その時の心の底から、湧き出す喜びと感動は、
その人を一回り大きく成長に導く糧である。
失敗するのは決して恥ずかしいことではない。
途中であきらめて投げ出すことが一番恥ずかしいことである。
酒造りは失敗の連続である。その失敗で何を学ぶかが大切である。
思いが通らなかったその酒に正面から向き合うことである。
語りかけることである。
その酒に答えが隠されている。

思いついたら挑戦しよう。
失敗しよう。
国酒の為に。

酒造りに限らない、誰にでも響く可能性のある言葉。このページに行き着く流れもあって、僕はちょっと目頭が熱くなった。

 
発行が9月末になっているので、未だ簡単に手に入るものなのか不明だけど、見かけたらぜひ読んでみてほしい。(時間が経つと、縮小版がサイトにアップされる模様。)

のんびり

<追伸>
『浅田家』で有名な浅田政志さんが、編集チームに入っているようで、写真もすごくいい。

本が示す自分。

LOVE (新潮文庫) 翻訳夜話 (文春新書) 日本の景気は賃金が決める (講談社現代新書) 文庫 銃・病原菌・鉄 (上) 1万3000年にわたる人類史の謎 (草思社文庫) 文庫 銃・病原菌・鉄 (下) 1万3000年にわたる人類史の謎 (草思社文庫) グリーンネイバーフッド―米国ポートランドにみる環境先進都市のつくりかたとつかいかた 選択の科学

LOVE / 古川日出男

以前にも読んだことも含めて、この人は文体の人なんじゃないかと思う。とにかく疾走感。短距離走を繰り返した後のような読後感。
とにかく地理の描写に拘っている気がする。地図を見ながら書いたりしてるのかと思うくらい。

 

翻訳夜話 / 村上春樹 柴田元幸

村上春樹もオースターも好きという理由で購入。(でも村上春樹の翻訳本はあまり読んだことない。)
作家の翻訳と翻訳家の翻訳。翻訳する本の選択の仕方など興味深いことも多いが、一番は最後に付いてる同じ文章を翻訳したときのアウトプットの違いが面白い。どうやっても村上春樹になってしまう様とか。

 

日本の景気は賃金が決める / 吉本佳生

インフレになることでなぜ景気回復するのか、その繋がりわからなかったから読んでみた。この本だけじゃ知識不足なのはもちろんなんだけど、「アベノミクス大丈夫か?」という感想になる。
この本の結論の1つは、民間消費を増やすことで経済成長に繋がり、その民間消費を増やすには低所得者の賃金を上げて賃金格差を無くすこと。読むと単純にそれやればいいじゃんってなるし、この人に限らずこれまでも専門家がたくさん意見をしただろうに、なぜ実際はそんなにうまくいってないのかを考えてしまう。(専門家の意見も分かれているんだろうけど。)
経済以外のことも含めて、世界が複雑化しすぎて(観なければいけない視点が多すぎて)、どんどん難しくなっている方向をなんとかできればいいのに。ちょっとやそっとじゃついていけない話があまりに多すぎる。

 

銃・病原菌・鉄 / ジャレド・ダイアモンド

ネットで見かけることが多かったので、意を決して。相当読むのに時間がかかった。上巻で結論が出ているため、特に下巻が。(下巻のおかげで信憑性が増すということなんだろうけど、それにしても。。。)
人種の違いじゃなくて、地理的要因の違いが現在の格差を生み出しているという話。
内容そのものよりも、なんとなくそうかもしれないって思ってることを説明するのに、ここまでしなくちゃいけないのかって圧倒される気持ちが強い。逆に、それほどまでに人種の問題は根深いのかとも思った。日本にいると、その切迫感がほとんどないから。恵まれている。

 

グリーンネイバーフッド―米国ポートランドにみる環境先進都市のつくりかたとつかいかた / 吹田 良平

ポートランドに行く前に急いで読んだ。読まないことで旅行に弊害はない。ただ、なぜポートランドが都市の肯定的な事例が用いられるのか、その内実のようなものを少しでも知りたいならという感じ。
写真も多くてさくさく読める分、専門本としては物足りなさはある。それでも日本にいるとこんなものだと思っていた『暮らす』という行為の見方が変わるかもしれない。
とはいえ、ブラウンフィールドから再生したパールディストリクトは、人もそんなに多くなく、ダウンタウンに比べると歩いているときの興奮度は低かった。本ではポジティブな面に特化しているので、それなりの課題はありそうだ。

 

選択の科学 / シーナ・アイエンガー

休んでいた間、会社の偉い人に勧められて。(僕の病気と絡めてこの本の話をされた。)
生きていると、大きなことから小さなことまで選択に溢れている。選択の自由度や幅広さ等にどんな影響があるのか、実験を通して示してくれる。そういう視点で考えたこと自体なかったから、とても新鮮だった。
自分が不調になった原因は、仕事で選択(判断)できる状況を全然与えてもらえなかったことが大きかったような気がする。最後の方は、何を自分で考えればよくて、何をどの上司の判断を仰げばいいのか、全く不明瞭な状態が続き、本当に辛かった。
僕は選べるところ(範囲は決まっていても選んでいると実感できるところ)で働きたいと、切にそう思った。

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