色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年 / 村上 春樹
これまで、新刊が出ても文庫になるまで待つことにしていた村上春樹。なぜか今回は発売日に買ってしまった。
理由の1つは、ページ数がそんなに多くなく、あっさり読めそうなこと。もう1つは、リアルタイムに読むことの意味を探りたかったこと。(ターニングポイントとなる現代の出来事を、物語により直接的に取り込むことが多くなってきていることもあって、そういう考えに行き着いたのだと思う。)
発売から日が浅いことも踏まえ、以下たたむことにする。(僕の感想がネタバレしてるかどうかは別として、先入観をもってこの本を読みたくない人もいると思うので。)
(さらに…)
虐殺器官 / 伊藤 計劃
テロの時代に、その脅威から身を守るため徹底された情報管理。この本の設定に対して、うまく規定できない余白が人の幸せと密接に関わっているのではないかとそんなことを思った。そしてまた、誰でもない何にも縛られない個としての時間の必要性も感じた。
体の外側の悲劇と内側の悲劇。幸福な時代の不幸な人間、あるいは不幸な時代の幸福な人間。価値の基準が生まれ変わっていくかもしれない。
つらつら書いた文章は別にこのSF小説の内容にそこまでリンクしていないだろうけど、小説のもつ想像力に影響されて書いているのだから、感想と言えなくもない。
著者が若くして亡くなってしまったのが惜しい。
トゥルー・ストーリーズ / ポール・オースター
僕にとっては、小説よりも読むのに苦労したエッセイ集。場面の切り替わりになかなか対応できなかった。
彼が経験した奇妙さが小説の中でも同じ感覚で入り込んでいることがわかった。どうして彼にこれほど変なことばかり起こるのだろうと考えてもわからない。きっとそういう宿命なのだろう。
オースターが船乗りだった一時期、(女の子が半裸で踊るような)酒場での強烈な体験を、強烈な表現で描いた箇所を紹介して終わることにする。
それは肉の畸形ショーだった。白い脂肪がぷるぷる弾む騎馬行進だった。カウンターのうしろのステージで一度に女の子四人が踊っている姿は、『白鯨』主役候補のオーディションという趣だった。女の子一人ひとりが一個の大陸だった。極小ビキニにくるまれた震えるラードの塊。それが四人ずつ次々に交代していく光景は、視覚に対する容赦なき襲撃だった。
(『その日暮らし』より)
ちょっとやりすぎだと思うけど、これが文学だとも思う。
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