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思いがけずが詰まった、そんな一日。(Turkey2012 – 4)

7月18日 サフランボル

朝食に合わせ起床。ここ2~3年はネガティブな雰囲気を翌日まで残さなくなっているので、旅行中と言えどもいつもの感じに戻る。
朝食はビュッフェスタイルではなく一式用意されたもの。トマトとキュウリが相変わらずおいしい。もちろんパンも。あとはこれまでトルコでは目にしていなかった卵料理(オムレツ)があって嬉しかった。そしてデザートにおけるトルコ特有の甘さにもだえながらもほとんど完食。
朝食後、本格的な観光を開始。とはいえ、チャルシュ自体は大きな街でもなく、街並みの美しさが最も特筆すべきところであり、いわゆる観光名所がたくさんあるわけでもない。おみやげ屋なんかを物色しつつ、目的地を目指す。ここまで統一感があると、歩くだけで心が嬉しくなる。自分で家を建てる(そしてそれが意図していなくても自己主張に繋がってしまう)という感覚ではなく、代々住んできた家を引き継ぐという感覚が当たり前なのかもしれない。「守る」とか「保つ」って意識がどれくらいあるか聞いてみたかった。
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まずはカイマカムラル・エヴィという古民家を当時の暮らしを示す博物館にコンバージョンした建物へ。建物は3階建て。1階は倉庫として日本でいう土間的なスペースが大半を占める。2〜3階が居住スペース。中心に大きな空間があって、その周りに個別の機能を割り当てた部屋が4つ程くっついている。廊下のようないわゆる機能を繋ぐための空間はない。驚くべきことに、部屋の1つは他と同じ設えなのに階段室も兼ねていた。
高橋由佳利さんの本に、トルコは家族(親戚も含む)の繋がりが強いことを言及していたが、それが空間からも読み取れる。僕も基本的には繋ぐことだけを目的とした空間は必要ないと思っているので、少しドラスティックだけれど、こういった構成の空間は好きだ。
そういや築200年と記載されていた僕らの宿も同じ空間構成だった。(さすがに階段は独立していたが。)
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次は昨夜も行ったフドゥルルックの丘へ。観光地のため、やはり昼間は人が多い。トルコ国内から来た小〜中学生や日本からツアーで来ている年配の方々がいた。
前者には、「こんにちは!(“に”にアクセント)」とたくさん言われ「こんにちは」と答えていたが、その後トルコ語で仲間とにやにやしながら話していたことを鑑みると、日本人をあまり見かけない地域の子どもかもしれない。(もしかしたら、単にバカにされていただけの可能性もある。)
後者には、カフェにて一人でぽつんと座っていたおじいさんと相席したので、「新婚旅行ですか?」と聞かれ、ニケも僕も曖昧に答えた。この質問は旅行中、現地の人に何度かされたけど、ずっとなんて答えていいかわからなかった。あとトルコ人にされた質問は、「結婚済?」「そうだよ」「子どもは?」「まだ」というのも複数回あった。日本では子どもが生まれたら夫婦2人で海外旅行に行くことがどれだけ難しいか説明したいくらいだ。
ここ何百年か、屋根にアンテナが付いた程度の変化しかないであろうすばらしい景色を眺めながら、あまりに暑いのでチャイでもサフランボルチャイでもないリプトンのアイスティー(缶)を飲んだ。人生の下半期にもう一度見たい景色だと思った。
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昨日の夕飯の失敗を取り戻すべく、チャルシュでおいしいごはん屋を探していたが、評判のいい店があまり見つからず、新市街地であるクランキョイで昼食をとることにしたため、街をぶらぶら歩きながら交通機関のある広場に向かう。
何の気なしに歩くことが楽しい。異国情緒を肌で感じるだけで、普段のテンションの5割増しくらいになってる気がする。ちょっとした面白さに敏感になるし、行き交う人々をついつい目で追ってしまうし、新鮮というのはこういうことなんだなと改めて実感した。
広場に着き、クランキョイまで安いドルムシュで行こうとして近くのおじさんに聞いてみるも、すぐには来ないような雰囲気。タクシーを勧められ、そんなに高くないし、じゃあタクシーにすると伝えたら、そのおじさんがおもむろにタクシーに向かって歩き始めた。やられた、そのおじさんはタクシー運転手だったのだ。まあ仕方ないかということで乗り込む。運転はやはり荒い。10分くらいでクランキョイ到着。
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お昼ごはんを食べる程お腹が減っていなかったので、適当に歩く。チャルシュに比べて特筆することはないような場所。ただ、観光地っていうのは良くも悪くもイメージが暮らしを誘導する部分があるのに対して、そんなに多くのお客さんが来ることを想定しない場所には、より多くの『普段』が垣間見えたりする。そういうことも旅行の中でたまに混ざると、より面白くなることが多い。
少し歩いているとスーパーを見つけたので入ってみる。僕らは異国のスーパーが大好きで、よく立ち寄る。理由としては、おみやげの掘り出し物があったりするからというのもあるが、その地に根ざした人々の暮らし(を支えるもの)が垣間見えるところも興味深いからだ。特に野菜が目を引いた。トルコの野菜は日本に比べて大きい。一般的な日本人の感覚として、サイズが大きい野菜は大味でおいしくないという共通認識があると思うんだけど、トルコの野菜は大きいのにおいしい。気候やら土やらが違うのかななんて話しながら、外に出て歩き始める。
もうちょっとお腹を空かせたいねということで、地元のおじさんしかいないチャイハネに立ち寄る。おじさん達がチャイを飲みながらしていることは、トランプか麻雀のようなゲーム(調べたら、オケイというらしい)か新聞かといった感じ。一人のおじさんに呼び込まれ、オケイが散らばる席に座る。チャイを注文後、僕もニケも無理矢理タバコ(パーラメント)を勧められ、会話が始まる。ほぼ英語が通じない。地球の歩き方の最後の方にあるトルコ語の会話ページをおじさんが見ながら、たどたどしい会話を続ける。iPhoneの翻訳アプリもほとんど機能せず、会話が成立したのはほんの少しだけど、おじさんが楽しそうだったからよかった。そういえば、途中でそのおじさんがチャイハネのオーナーだとわかっていたのだけど、最後にチャイと水の代金を払おうとしたら、首を横に振って「いらないよ」というジェスチャーだった。ここぞとばかりに、村上春樹が「雨天炎天」で書いていたマルボロをお礼として渡した。(事前にマルボロを買うのを忘れていて、羽田空港で喫煙所のおじさんに勇気を出して話しかけ、タスポを借りて自販機で購入していた。)マルボロ効果かは別として、オーナーはとても喜んでいたようなのでよかった。
言葉がコミュニケーションの全てなんかじゃなくて、手段でしかない。いや、言葉があればもっといいのは確かだ。それでも、それがなくても、ボディランゲージやら表情やらの原初的な何かでも一定レベルの共有はできる。むしろ言葉では言い表せない部分が伝わったのかもしれない。人と人とが触れ合う温かさのようなものが。
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いよいよごはんということで、なんとなく目星を付けておいた雰囲気の良いロカンタに入る。
お客さんが僕達だけで少し不安になっていると、まだ子どもといってもいいであろう年齢の男の子、女の子が対応してくれた。どうやら家族経営らしい。メニューがなく、バッドに入っている料理を見ながら注文をする。チキンの煮込み、レンズ豆のスープ、ライスを頼む。もちろんパンはデフォルトでつく。(いらないって言えばいいのかもしれないけど、おいしいから食べてしまう。)もうできている料理なので、すぐに出てくるのが嬉しい。肝心の味だが、めちゃくちゃおいしい。この時に、イスタンブールではロカンタを中心に回ることを決意。とても安いのも魅力的だ。食べ終わった後に、スプレーで香料を手にかけられスッキリ。(僕は少し鼻がむずむずしてしまうのだけれど。)
イケメンの男の子に見送られ店を後にする。
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このままチャルシュに戻ろうかとしたら、商店街的なストリートを見つけて、時間もたっぷりあるし歩いてみる。歩き始めたところに果物屋があって、いきなり小さい梨をもらう。かじってみるととても甘くておいしい。こういうハプニングは大歓迎。なぜか靴屋が多かったり、完全に地元向けのロカンタだったりと表通り以上に日常性がギュッと凝縮されていた。
タクシーで来たときにそこまで距離がなかったので、チャルシュまでは歩いて戻ることした。とはいえ日差しがとても強い。それでも素晴らしい景色を眺めながらてくてく歩く。途中の壁に世界遺産の記載があって、1994年に指定されたらしく、「もう20年近いんだ」なんて話をしながら、なおも歩く。面白い標識や道路が石畳に変わる旧市街に入る場所を見つけたりもした。こういうささやかな瞬間も旅行の大切な一部だ。『魂は細部に宿る』なんて格言もあるけど、旅行の成否もちょっとしたことに左右される気がする。大体みんなが同じような場所を見て回る中で、自分だけ(と認識する)の体験は些細なところで思いもよらず巡り会う。ガイドブックのその先を。
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まだ時間もあるのでサフランボル歴史博物館に行ってみる。もともと得ていた情報の通り、トルコ語での解説しかないので細かいことはあまりわからないが、写真や実物の展示で、昔の雰囲気を感じ取れてなかなかよかった。どうやら靴屋や薬屋で有名だったらしい。(おそらくその後、そういった産業は衰退し、どこかのタイミングで観光地に向かう舵を切ったのだろう。)
その後、街中に戻るもへとへとだったので、チャイハネで休む。屋外の日影の席に座って、もちろん注文はチャイ。隣のテーブルではおじさん達がここでもオケイ。ゲームというよりコミュニケーションに近いのかもしれない。そういえば、友人とやった麻雀は僕にとってまさにコミュニケーションだった。深夜に思考が停止してくる頃のはしたない会話。男同士の最高にくだらなくて美しい記憶が蘇る。
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しばし休憩後、まだこの旅でモスクに行ってないので立ち寄ってみる。入る前にニケはこの街で買った布を頭に巻いていた。特に観光場所でもないようで中に入っても観光客が2〜3人程度。しばらくぼーっとしていると、地元の男性が祈りにやってきた。おそらく正規の時間に祈れない事情があって一人やってきたのだ。彼の祈りをじっと見る。いや、彼の祈りの動作を見ていたというのが正しい。最初は興味本位でしかなかったのだけど、ずっと見ているうちに引き込まれていった。独特のゆったりしたリズムで繰り返される動作。徐々に神聖さが帯びてくる。
僕は「拠りどころ」という言葉が浮かんでくる。僕の周りの日本人の多くが宗教に対してそんなにコミットしていないし、僕もまた同じだ。それがある種の強さだと思っていたし、それは今となってもそうなのだと思うけど、逆に弱さにも繋がっているのかもしれないと、その一連の動作を見て感じた。絶対的な判断基準がなくて、良い流れのときは柔軟さが武器になるものの、歯車がかみ合わなくなったとき、踏み止まる後ろ盾がなく落ちていく。何が正しいとかじゃなくて、体験としてそう実感させられた。僕の絶対に変わらないところはどこにあるのか。存在するのか。
ちなみに、その神聖さを邪魔できないと思い、祈っている時の写真は全く撮ることができなかった。
もう目的をもって訪れる場所もないので、フドゥルルックの丘に向かう。困ったときのフドゥルルックの丘頼み。それくらいこの丘からの景色は何度見ても飽きない。まったりして、記念撮影なんかもしてみる。
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そろそろ夕飯ということでガイドブックを読んで決めていたシンジハンに行ってみると、カフェのみになってしまったようで、レストランはどうやら閉店してしまったらしい。他の店もなくなっていたりして、どうやら入れ替わりが激しいようだ。サフランボルをじっくり見て回れるのは今日限りなので、歩き回ることは嫌じゃないが、昨日の失敗もあり、おいしい夕食に出会えるかどうかの焦燥感がありつつ右往左往する。
結局、元々候補にあがっていた広場近くのレストランに行ってみると、席も空いており入ることができた。まずは一安心。ラムチョップを頼み、久しぶりにザ・肉というものを食べた。あとはサフランボル特有の中身が包まれたピデも注文してみたら、とてもおいしかった。食が旅の中の喜びとして存在しているのは、とても重要だ。海外である程度の移動が伴う場合、名所を回ることですら億劫になる瞬間があったりする中で、おいしい食事は活力になる。
今日は歩いている間に布やキーホルダー、ロクムなんかのおみやげも買った。ザックが少しずつ重くなってきた。あと、日本から持ってきたフィルムが無くなることが明白だったので、なんとか店を見つけて購入。コダックとフジカラーの一般的なやつでISO400。贅沢は言ってられない。
明日の朝はいよいよ最終目的地のイスタンブールに向かっての移動が控えている。でもせっかくだからということで、ホテルで一杯ビールを飲んだ。それだけの量で明らかな酔っ払い。初めてアルコールを口にした少年のような酔い方だ。いつもの自分を見失いながら眠りについた。旅の終わりが近づいていく。
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Turkey – 120718

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